act.21
自分が人と違う事に気がついたのは、小学校中学年くらいだっただろうか。
それまではただ、自分が愚かで低脳だからみんなと同じに出来ないから学校で馴染めないのだと思っていた。
本当はそうではない。考え方が皆と違うのでうまくいかなかっただけで、本当は運動も勉強も人より要領よくやれた。
子供の時からきらきらした物を見るのが好きで、それは不思議と、ある一定の年齢までの少年少女が沢山持っている。
彼らは古田の果てしなく続く泥のような人生に瞬く、唯一の灯火だった。
きらきらした物は壊れる瞬間に最も強く光り、気持ちが良い。だから古田は、それが見たくて何度も壊した。
古田と本当の意味で関わった者は、いつも「何故」とたずねる。
古田からすれば、自分以外のものが全て「何故」である。
古田には古田の決まりと美学、真心があり、ただそれがたまたまこの世界で珍しかった。それだけの話である。
彼はおかしくはない。彼以外の誰も、おかしくはない。ただ、違うだけ、それだけだ。
翼という少年は、最初から古田の下心に気がついていたように思う。とは言っても、せいぜいが小児性愛者程度にしか思っていなかったろう。
最初から殺すつもりで近付いて、小賢しい誘いにのってやった。
実行に移すのが遅れたのは、いつしか彼の煌めきをずっと見ていたいと思ったからだ。
壊すのが惜しいと、初めて思った。
「ただ生きているだけなのに、どうしてこんなに息苦しいのだろう」
翼の兄が誰かに零した言葉をたまたま聞いた。
それまで兄の方には全く興味がなかったが、その言葉は古田が漠然と感じていた問いと似ていた。
本を読んでも、人間の身体をつまびらかにしても、偉い人に聞いても、答えは出ない。
この真綿で首を締められ続けているような人生で、きらきらを見ている時だけ、彼は楽になれた。
『お前に僕は殺せない。僕には約束がある。お前は僕が絶対に殺してやる』
最後まで壊せなかったきらきらが、胸の中で燻る。
『それじゃ賭けようよ。朝貴くんが君を諦めたら、その時は僕は君を殺そう。朝貴くんがずっと君を待っていたら、僕は君に殺されてあげる』
実際には、少年の親友は彼を待ち続けたのに、彼は先に逝ってしまった。
幼い身体は古田の予想よりも体力がなかった。両脚を根元から奪ってすぐ、彼は高熱を出して死んだ。
もともと『ずっと』がいつまでか決めていなかった。
『ずっと』一緒に遊んでいるつもりだったから。
ずっとずっと君を見ていたい。
それは、僅かに残っていた呼吸も奪うほどの、激しい初恋だった。